日本で働くうえでは、規律、正確さ、責任感、そして業務手順の遵守が重視されます。作業ミスや安全手順違反があった場合、上司から厳しい指導や注意を受けることもあります。
しかし、職場での指導や注意にも限度があります。
日本では、優越的な関係を背景として、業務上必要かつ相当な範囲を超え、就業環境を害する言動をパワーハラスメント(パワハラ)といいます。
適切な業務指導とパワーハラスメントの違いを理解することは、技能実習生や特定技能外国人を含む、すべての労働者にとって重要です。

パワーハラスメントとは?
厚生労働省によると、職場におけるパワーハラスメントは、原則として次の3つの要素をすべて満たす言動を指します。
1. 優越的な関係を背景とした言動であること
行為を受ける労働者が、抵抗したり拒絶したりすることが難しい関係のもとで行われる言動をいいます。
これは、上司と部下の関係に限りません。
状況によっては、業務上の知識や経験、影響力、集団としての力などにより相手が拒否しづらい場合、先輩、同僚、さらには部下による言動も該当することがあります。
2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えていること
業務の遂行、監督、改善のために客観的に必要とされる範囲を超えた言動を指します。
したがって、業務上必要で適切な指示や注意が直ちにパワーハラスメントになるわけではありません。
3. 労働者の就業環境が害されること
その言動によって就業環境が悪化し、仕事に支障が生じるなど、看過できない程度の影響が生じることをいいます。
この3つの要素に該当するかどうかは、それぞれの事案の状況や背景を踏まえて総合的に判断されます。
厳しい注意が必ずしもパワハラになるわけではない
上司には、業務指示、評価、ミスの是正や注意を行う権限と責任があります。
例えば、労働者が次のような行動をとった場合です。
- 標準作業手順(SOP)を守らない
- 同じミスを繰り返す
- 業務の遂行が遅れる
- 事故につながるおそれのある行為をする
- 安全保護具を正しく使用しない
こうした場合、上司は必要な是正指導や注意を行うことができます。
例えば、次のような注意です。
「この手順を省略すると事故につながるおそれがあります。定められた手順を守ってください。」
このような注意は、基本的に業務と安全の確保を目的としています。
一方で、注意が侮辱、暴力、脅迫、人格否定など、業務の改善に必要のない行為へと発展した場合は問題となり得ます。
つまり、注意を受けたかどうかだけでなく、その目的、方法、程度、頻度、当事者間の関係、就業環境への影響などが判断のポイントになります。
日本で示されているパワーハラスメントの6類型
厚生労働省は、パワーハラスメントの典型的な例を6つの類型に整理しています。
ただし、これらは代表的な例であり、実際にパワハラに該当するかどうかは、個別の事情によって判断されます。
1. 身体的な攻撃
身体的な攻撃
例えば、次のような行為です。
- 殴る
- 蹴る
- 乱暴に突き飛ばす
- 労働者に向かって物を投げる
- 相手にけがを負わせるおそれのあるその他の身体的行為
身体的暴力は、適切な指導や職場の規律維持の一部ではありません。
2. 精神的な攻撃
精神的な攻撃
例えば、次のような言動が挙げられます。
- 脅迫
- 侮辱
- 名誉を傷つける言動
- 著しく乱暴な言葉
- 人格を否定する発言
- 行き過ぎた見下しや屈辱的な発言
仕事の成果を指摘することと、相手の人格や尊厳を傷つけることは異なります。
例えば、「この仕事の仕上がりは改善が必要です。」という指摘と、「あなたは役立たずで、ここで働く資格がない。」という人格を否定する発言は異なります。
パワーハラスメントに該当するかどうかを判断する際には、発言の背景や伝え方も重要です。
3. 人間関係からの切り離し
人間関係からの切り離し
例えば、次のような行為です。
- 意図的に労働者を孤立させる
- 集団から仲間外れにする
- 継続的に無視する
- 正当な理由なく業務上の連絡から排除する
業務に関係のない会議に参加させないことと、嫌がらせや制裁のために意図的に孤立させることは異なります。
4. 過大な要求
過大な要求
例えば、次のような行為です。
- 業務上明らかに必要のないことを強制する
- 現実的に達成できない仕事を課す
- 相手を追い詰める目的で不合理な業務負担を与える
- 仕事を終えられないよう意図的に妨害する
難しい仕事や高い目標があるだけで、直ちにパワハラになるわけではありません。業務の状況、労働者の能力、指示の目的、負担の妥当性などを考慮する必要があります。
5. 過小な要求
過小な要求
合理的な業務上の理由がないにもかかわらず、例えば次のような行為を行うことです。
- 能力や経験に著しく見合わない単純な仕事ばかりを継続的に与える
- まったく仕事を与えない
問題となるのは仕事が簡単であること自体ではなく、合理的な理由がなく、労働者を追い詰めたり排除したりする目的でそのような扱いをすることです。
6. 個の侵害
個の侵害
例えば、業務に関係する理由がないのに、労働者の私生活へ過度に立ち入ることです。
上司が業務や人事手続に真に必要な情報を尋ねる場合もあります。
しかし、家族関係、個人的な交際、その他の私的な事柄に過度に干渉することは、パワーハラスメントの要素を満たす場合、問題となり得ます。
乱暴な言葉がすべてパワハラになるとは限らない
外国人労働者も、状況を判断する際には慎重になる必要があります。
ある一言や一度の出来事だけで、必ずしもパワーハラスメントがあったと判断できるわけではありません。
例えば、乱暴な言葉や国籍を見下す発言は、パワーハラスメントの要素を満たす場合、精神的な攻撃に該当することがあります。ただし、その判断には、当事者間の関係、発言内容、頻度、影響なども考慮されます。
そのため、不適切だと感じる扱いを受けた場合でも、一つの言葉だけを根拠にすぐ結論を出すのではなく、まず事実を記録して適切な相談窓口に相談しましょう。
パワーハラスメントを受けたと感じたら?
パワーハラスメントが疑われる場合は、次のような対応が考えられます。
1. 出来事を記録する
次の情報を記録しましょう。
- 日時
- 場所
- 関係した人
- 目撃者
- 何を言われたか、何をされたか
- 仕事にどのような影響があったか
関連するメッセージ、メール、業務指示書、その他の資料も保存してください。
記録を整理しておくと、会社や相談窓口に状況を説明する際に役立ちます。
2. 会社の内部相談窓口を利用する
日本の事業主には、職場でのパワーハラスメントを防止し、適切に対応するための措置を講じる義務があります。
相談先として、会社に設置されている場合は、次の窓口を利用できます。
- 人事担当者
- 別の上司
- コンプライアンス担当者
- ハラスメント相談窓口
- 社内通報窓口
ハラスメントについて相談したり、疑いを報告したりしたことのみを理由に、不利益な取り扱いを受けるべきではありません。
3. 技能実習生はOTITに相談できる
技能実習生は、外国人技能実習機構(OTIT)の相談サービスを利用できます。
OTITは、インドネシア語を含む複数の言語で相談を受け付けています。
暴力、脅迫、強制帰国の圧力など重大な問題については、SOS・緊急相談の窓口もあります。
状況に応じて、監理団体に相談することもできます。
4. 労働局にも相談できる
いじめ、ハラスメント、パワーハラスメントなどの労働問題については、各地の労働局などに設置されている総合労働相談コーナーに相談できます。
外国人労働者の相談も受け付けており、インドネシア語を含む複数言語による支援も利用できます。
相談は無料です。
5. 問題の種類によって相談先を選ぶ
職場の問題がすべて同じ機関で扱われるわけではありません。
例えば、次のように相談先が異なります。
- パワーハラスメントや職場のトラブル:労働局・総合労働相談コーナー
- 技能実習生特有の問題:OTITや関係する監理団体
- 賃金、労働時間、残業、労働基準法違反:労働基準監督署
- 身体的暴力や重大な脅迫:刑事事件となる可能性があり、状況によって警察への相談や通報が必要
問題の内容に合った相談先を選ぶことが、適切な解決につながります。
自分の権利と義務を理解し、プロ意識を持って働こう
パワーハラスメントについて理解することは、上司からの注意をすべてハラスメントとみなすことではありません。
労働者には、ルールを守り、評価を受け止め、ミスを改善し、安全手順に従う義務があります。
一方で、職場の規律を理由に、暴力、侮辱、威圧、業務上必要な範囲を超えた扱いが正当化されるわけでもありません。
そのため、日本で働こうとする人は、労働者としての義務と、適切な就業環境で働く権利の両方を理解することが大切です。